民泊「180日ルール」の本当の中身 ― 全国一律の上限と、条例による上乗せ規制の読み方
公開: 2026-08-03|運営: ubusuna works
この記事の結論
法律のどこにも「180日まで営業できる」とは書かれていません。180日は全国一律の上限で、そこから条例がさらに削ります。新宿区のように、住居専用地域では平日の営業ができない自治体もあります。
誰向けか: 180日を前提に収支を組んでいるオーナー
- 物件のある自治体が条例で上乗せをしていないか
- 住居専用地域に入っていないか
- 実際に営業できる日数で収支を組み直したか
年間180日。民泊を検討したことがある人なら、この数字は聞き覚えがあるはずだ。だから半年は貸せる、残り半年は空けておく——そう見積もって収支表を作った人も多いに違いない。
ところが、新宿区の住居専用地域に物件を持っている人が同じ計算をすると、実際に泊められる日数は半分にも届かない。法律が180日と言っているのに、である。数字が動いたわけではない。動いたのは、その180日をどこに置けるかという枠のほうだ。
条文はどこにも「180日まで営業できる」と書いていない
住宅宿泊事業法第2条第3項を読むと、少し意外な書き方をしている。住宅宿泊事業とは、旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないもの、とある。
つまり180日は、許可された営業量ではなく、この制度に乗れるかどうかの境界線として置かれている。超えたらペナルティという性格の数字ではなく、超えた時点でそれは住宅宿泊事業ではなくなる。旅館業の側の話になる。
もう一点、条文が省令に委ねているのが「算定した日数」の中身である。稼働した日ではない。宿泊させた日、つまり泊の数え方が定められている。大田区が自区の説明で年間提供日数を「1年間(4月1日正午から翌年4月1日正午まで)で180日を超えないもの」と示しているのは、この算定の起点と終点が制度側で決まっているからだ。暦年でも、届出日からの1年でもない。正午区切りである。
「地域の実情を反映する仕組み」という一行が効く
国土交通省の資料「住宅宿泊事業法の概要」は、年間提供日数の上限を180日(泊)としたうえで、地域の実情を反映する仕組みの創設として、自治体が条例で区域と期間を制限できることを明記している。
この一行が、実務では180日という数字より重い。制限できるのは区域と期間、つまり「どこで」と「いつ」であって、上限日数そのものを引き下げる建て付けにはなっていない。にもかかわらず、期間を削れば結果として営業可能日数は減る。180日は上限のまま残り、そこに到達する経路だけが細くなる、と言ったほうが実態に近い。
新宿区:平日は営業できない住居専用地域
新宿区住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例では、住居専用地域において、月曜日正午から金曜日正午まで住宅宿泊事業を実施できない。
残るのは金曜正午から月曜正午までである。週末中心の営業に限定される、という表現が区の説明にも出てくるが、収支に落とすとこの制約はかなり硬い。年間の上限は法定どおり180日のまま据え置かれているのに、その180日を積み上げる場所が週末側にしかない。上限に張り付くこと自体が構造的に難しくなる。
同じ新宿区でも、住居専用地域以外なら曜日を問わず年間180日まで実施できる。区が違うのではなく、同じ区の中で用途地域の線一本を挟んで扱いが変わる。物件を探している段階で確認すべきは区名ではなく、その番地の用途地域だ。
もうひとつ、新宿区は届出手続にも独自の義務を足している。事業を営もうとする者は、届出の7日前までに近隣住民へ書面で周知し、その実施結果を区に報告しなければならない。日数の話ではないが、スケジュールには直結する。届出書類が揃った日から逆算して、少なくとも7日は前に周知が終わっていなければならない。管理業者への委託を検討している場合、この周知を誰が実施し、誰が報告書をまとめるのかは、契約前に詰めておく論点になる。
大田区:家主が住んでいるかどうかで地図が変わる
大田区住宅宿泊事業法施行条例の組み立ては、新宿区とは軸が違う。効いてくるのは、住宅宿泊事業法第11条第1項各号に該当するかどうか、つまり家主不在型かどうかである。
家主不在型の場合、第一種・第二種の低層および中高層住居専用地域、工業地域、工業専用地域、特別用途地区としての文教地区・特別業務地区、流通業務地区、そして平和島地区・東海三丁目地区・田園調布地区を含む5つの地区計画区域で、事業の実施が制限される。日数を削る規制ではなく、そもそもその場所では営業できないという形の規制だ。180日の計算に入る前に判定が終わる。
期間の制限もある。小学校・中学校の敷地周囲100メートル以内の区域で家主不在型の新規届出を行う場合、月曜正午から金曜正午までは事業を実施できない。新宿区の住居専用地域と似た形だが、対象の切り方が学校からの距離である点が違う。地図上で自分の物件が100メートルの内側なのか外側なのかを、届出前に確定させておく必要がある。
そして、この地域・期間の制限を家主居住型は受けない。同じ住所、同じ建物でも、家主が居住しているかどうかで結論が反転する。ここは物件の属性ではなく事業の設計の問題だから、届出前に選び直せる余地がある部分でもある。
何日営業できるかは、三段階でしか出てこない
最初の問い——180日をあてにした収支表がなぜ崩れるのか。答えの一つは、180日が上限であって配分の自由を保証していないことにある。もう一つは、日数を数える前に済ませなければならない判定が二つあることだ。
順番はこうなる。まず、その番地でその形態の事業が実施できるか。大田区の家主不在型のように、用途地域や地区計画で入口が閉じている組み合わせがある。次に、実施できるとして、何曜日の何時から何時までが使えるか。新宿区の住居専用地域や大田区の学校周囲100メートルは、ここで週の半分以上を落としてくる。最後に、その使える枠の中で、4月1日正午起点の1年に180日を超えないよう積む。
三段階目まで来て初めて、実際の営業可能日数が出る。逆から始めると、まず間違う。
新宿区の周知義務のように、日数とは無関係でも届出のスケジュールを縛る独自ルールが積まれている自治体もある。物件所在地の自治体ページを、届出の前に一度は自分の目で通読してほしい。条例は改正される。孫引きの要約より、区の原文が早い。
委託先の管理業者を探す段階なら、その業者が該当自治体の条例運用にどれだけ慣れているかは、確認しておく価値のある一点だ。民泊ビトの業者データベースでは、登録済みの住宅宿泊管理業者を地域から絞り込んで比較できる。
出典
- e-Gov法令検索 住宅宿泊事業法(第2条): https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000065
- 新宿区「住宅宿泊事業と新宿区のルールについて」: https://www.city.shinjuku.lg.jp/kenkou/eisei03_002086.html
- 大田区「住宅宿泊事業について」: https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/hoken/eisei/riyoubiyou/minpaku_shinpou.html
- 国土交通省「住宅宿泊事業法に基づく民泊の管理業制度について」: https://www.mlit.go.jp/common/001308507.pdf
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