見積書は、法律が出せと言っている紙ではない ― 管理委託の契約前に交付される書面と9つの説明事項
公開: 2026-08-24|運営: ubusuna works
この記事の結論
住宅宿泊管理業者には、契約を結ぶ前に9項目を書面で交付して説明する義務があります(法第33条・国規則第14条)。見積書やサービス案内はこの書面の代わりになりません。契約後にも別の書面が交付されます。
誰向けか: 管理委託の見積もりを受け取り、どの業者と契約するか決めようとしている民泊オーナー様
- 契約前に交付される書面(9項目)を受け取っているか確認する
- 報酬に含まれない費用(水道光熱費・備品代)の負担がどちらかを書面で確かめる
- 再委託の予定先と、責任・免責の分担が書面に書かれているかを確かめる
管理会社から見積もりが届く。月額の金額、対応する業務の一覧、オプションの表。そこまで揃っていれば、あとは他社と並べて決めるだけに見える。
その紙は、法律が業者側に出せと命じている紙ではない。
契約書にサインする前に、業者の側が一枚渡す
住宅宿泊事業法第33条第1項は、住宅宿泊管理業者に対し、管理受託契約を締結しようとするときは、委託者に対し当該管理受託契約を締結するまでに、契約の内容とその履行に関する事項であって国土交通省令で定めるものについて、書面を交付して説明しなければならないと定めている。
交付だけでは足りない。条文は「書面を交付して説明」と書いている。渡して終わりにはできない。
義務を負うのは業者の側で、オーナーが請求しなくても発生する。委託者が住宅宿泊管理業者自身である場合だけが、この条文の対象から外れている。
ここが大事
営業日数の上限や近隣への事前周知は自治体の条例で中身が変わるが、この書面の義務は住宅宿泊管理業の登録が国土交通大臣によるものであるため、物件がどの市区町村にあっても同じ内容で課される。
九つのうち、金額の話は二つだけ
書面で説明される事項は、国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則(国規則)第14条が9つ挙げている。
| 号 | 説明される事項(国規則第14条) | 確かめる側から見た読みどころ |
|---|---|---|
| 一 | 商号・名称または氏名、登録年月日、登録番号 | 登録は5年ごとに更新を受けなければ効力を失う(法第22条第2項)。番号と登録年月日が国土交通省の登録簿と合うか |
| 二 | 管理業務の対象となる届出住宅 | 所在地・物件名・部屋番号のほか、委託の対象となる部分と維持保全の対象となる附属設備まで示される(ガイドライン) |
| 三 | 管理業務の内容および実施方法 | 回数や頻度を明示して可能な限り具体的に、が要求水準(ガイドライン) |
| 四 | 報酬、その支払の時期と方法 | 月額の定額か、宿泊数に比例するか |
| 五 | 報酬に含まれない、住宅宿泊事業者が通常必要とする費用 | 水道光熱費、届出住宅に置く備品の購入費など(ガイドライン) |
| 六 | 管理業務の一部の再委託に関する事項 | 再委託の予定先は誰か。一方的に変わる可能性があるか |
| 七 | 責任および免責に関する事項 | 宿泊者が壊した、近隣が損害を受けた。そのとき誰が負うか |
| 八 | 契約期間に関する事項 | 始期・終期・期間 |
| 九 | 契約の更新および解除に関する事項 | 期間の途中で解約できるか |
三号について、ガイドラインは踏み込んだ書き方をしている。委託者であるオーナーが届出住宅の管理に十分な知識や経験を持っている場合であっても、当事者間の責任関係を明確にするため、この事項を説明せずに契約することは認められない、と。慣れているから省略、が通らない。
五号は、見積書の比較を一度ひっくり返すことがある。月額が安いほうに水道光熱費と備品代が乗っていれば、順位は入れ替わる。
「いつでも解約できます」と書いてあった場合
契約前の段階には、もう一つ業者側の縛りがある。第31条の誇大広告等の禁止である。
対象は国規則第12条が3つに絞っている。責任に関する事項、報酬の額に関する事項、契約の解除に関する事項。ガイドラインは、この3つそれぞれについて、どういう広告が問題になるかを例で示している。
広告に書かれていること
家主に損害の負担は生じない。委託報酬は月額の定額。委託者が求めるときはいつでも解約できる。
実際の契約書
宿泊者が生じさせた損害について管理業者は一切責任を負わない。報酬は宿泊数に比例する。契約期間途中の解約は制限される。
この食い違いが「著しく」の程度に達していれば、第31条違反にあたる。判定の基準としてガイドラインが置いているのは、住宅宿泊管理業についての専門的な知識を持たない一般の家主を誤認させる程度のものかどうか、という線である。専門家が読めば見抜ける、では言い訳にならない。
夜9時の電話は、それ自体が線を越えている
第32条は不当な勧誘等を禁じ、その第2号を受けた国規則第13条が、3つの行為を具体的に挙げている。
- 委託者に迷惑を覚えさせるような時間に、電話または訪問により勧誘する行為
- 契約の締結・更新をしない意思を示した委託者に、執ように勧誘する行為
- 届出住宅の所在地その他の事情から、管理業務の適切な実施を確保できないことが明らかであるにもかかわらず、契約を締結する行為
一つめの「迷惑を覚えさせるような時間」に、ガイドラインは目安を与えている。相手方の職業や生活習慣に応じて個別に判断されるとしたうえで、承諾を得ている場合を除き、特段の理由なく午後9時から午前8時までの時間帯に電話勧誘・訪問勧誘を行うことは、これに該当するとしている。
三つめが効く。届出住宅へすみやかに駆けつけられる体制がないまま契約を取る行為が、禁止行為として名指しされている。ガイドラインは、勧誘にあたっては駆けつけ可能な体制を持っていることを委託者に示しながら行うことが望ましい、とまで書いた。遠方の物件で「対応可能です」とだけ言われたら、その体制の中身を聞いてよい。聞かれる前提で条文ができている。
全部の再委託は禁止。一部は、承諾があれば通る
第35条の見出しは「住宅宿泊管理業務の再委託の禁止」だが、条文が禁じているのは全部の再委託である。
ガイドラインは、この趣旨を明示している。管理受託契約に一部の再委託に関する定めがあるときは、再委託を行うことができる。ただし全部を他者へ渡すこと、そして複数の者に分割して再委託し自らは管理業務を一切行わないことは、いずれも第35条違反にあたる、と。
再委託先が住宅宿泊管理業者である必要はない。責任は、オーナーと契約を交わした管理業者が負う。
注意
ガイドラインは、再委託先を事前に明らかにする必要があり、変更のたびに書面または電磁的方法で委託者に知らせる必要があるとしている。再委託先が一方的に変更される可能性がある場合は、その旨もあらかじめ説明される。契約後に現場の顔ぶれが黙って入れ替わる形は、想定されていない。
契約したあとに、二枚目が届く
第34条第1項は、契約を締結したときは、委託者に対し遅滞なく書面を交付しなければならないと定める。契約前の説明書面とは別物である。
法が直接挙げるのは5つ。対象となる届出住宅、管理業務の実施方法、契約期間、報酬、契約の更新または解除に関する定めがあるときはその内容。六号の「その他国土交通省令で定める事項」を受けて、国規則第17条がさらに5つを足している。商号等、管理業務の内容、一部の再委託に関する定めがあるときはその内容、責任および免責に関する定めがあるときはその内容、そして法第40条による報告に関する事項。
年に一度、苦情の件数が書面で戻ってくる
第40条は、住宅宿泊管理業者に対し、管理業務の実施状況その他の事項を定期的に住宅宿泊事業者へ報告することを義務付けている。
いつ、何を報告するかは国規則第21条にある。委託した住宅宿泊事業者の事業年度終了後、および管理受託契約の期間の満了後、遅滞なく、「住宅宿泊管理業務報告書」を作成し、これを交付して説明しなければならない。
記載されるのは4つである。
- 報告の対象となる期間
- 住宅宿泊管理業務の実施状況
- 対象となる届出住宅の維持保全の状況
- 対象となる届出住宅の周辺地域の住民からの苦情の発生状況
四つめは、委託した側が普段は見えないところの数字だ。近隣から何件来て、どう処理されたか。委託契約を続けるか替えるかを決める材料が、法律上、毎年こちらへ渡ることになっている。
帳簿の側にも記録が残る。国規則第19条は、管理業者が届出住宅ごとに契約年月日・委託者の名称・受託した業務の内容・報酬の額・特約その他参考となる事項を帳簿に記載し、各事業年度末に閉鎖して閉鎖後5年間保存することを求めている。
説明を怠っても、罰金は来ない
ここで条文を数えると、意外なことになる。
住宅宿泊事業法の罰則は第72条から第79条までにあるが、第33条(締結前の書面)、第34条(締結時の書面)、第35条(再委託)、第40条(定期報告)の違反を直接に罰する規定は、そこに置かれていない。帳簿の第38条と標識の第39条は第76条に並んでいて、30万円以下の罰金がつく。書面と報告の義務だけが、この列から外れている。
では放置されるのかというと、そうではない。別のルートが用意されている。
実際に効く順路
第41条第1項の業務改善命令 → 第42条第1項第3号「その営む住宅宿泊管理業に関し法令又は前条第一項若しくはこの項の規定による命令に違反したとき」により登録の取消し、または1年以内の業務停止 → その命令に違反した場合は第74条で6月以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金、またはその併科。
罰金の額ではなく、登録そのものが懸かっている。無登録では住宅宿泊管理業を営めない(第22条第1項、違反は第72条で1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)から、取り消された時点で事業が止まる。委託していたオーナーは、委託先を探し直すことになる。
書面が出てこない業者を、それだけで悪質だと決めることはできない。小さな会社が手続きに不慣れなだけ、という場合もある。ただ、その不慣れがどこまで及んでいるかは、こちらからは見えない。
見積書の隣に、もう一枚を並べる
冒頭の見積もりに戻る。金額とサービス一覧の比較でカバーできるのは、第14条の9項目のうち三号と四号の一部にとどまる。残りの七つ——登録番号、対象範囲、報酬に含まれない費用、再委託、責任と免責、期間、途中解約——は、書面が出てくるまで比較の土俵に上がらない。
こちらから請求しなくても、契約するまでに交付して説明することが、業者側の義務として先に決まっている。
当サイトの住宅宿泊管理業者の一覧には、事業者ご本人に確認が取れた社の登録番号・対応エリア・対応業務を、回答のまま載せた。どこに何を聞けばよいか整理しきれないときは、無料相談で状況を伺ったうえで、条件に合う社をお伝えしている。
一つ書き残しておく。9項目のうち七号の責任および免責について、ガイドラインは、オーナーと管理業者が事前に協議したうえで賠償責任保険に加入する等の措置をとることが望ましい、としている。望ましい、であって義務ではない。誰が保険に入っているのかは、書面の外側で確かめることになる。
出典(いずれも2026-08-23取得)
- 住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)第22条・第31条・第32条・第33条・第34条・第35条・第38条・第39条・第40条・第41条・第42条・第72条・第74条・第76条。全文は e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000065 (法令APIより全文XMLを取得して条文を確認)。厚生労働省法令等データベースサービス https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=68ab5981&dataType=0&pageNo=1 でも同一の条文を確認した
- 国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則(平成29年国土交通省令第65号)第12条・第13条・第14条・第17条・第19条・第21条。e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/429M60000800065
- 住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)平成29年12月26日策定・令和6年12月24日最終改正、厚生労働省健康・生活衛生局/国土交通省不動産・建設経済局/国土交通省住宅局/国土交通省観光庁。https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001622384.pdf
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