宿泊室50㎡が分かれ目。民泊の消防設備は、旅館と同じになる場合とならない場合がある

公開: |運営: ubusuna works

届出さえ出せば、あとは自治体の指示に従うだけ。そう思って準備を進めていた方が、消防署の窓口で「この間取りだと旅館と同じ扱いになります」と言われて固まる。よくある話です。

消防の扱いは、住宅宿泊事業の届出とは別の物差しで決まります。しかもその物差しは、驚くほど単純です。二つだけ。家主がその場にいるか、いないか。宿泊者が寝るために使う部屋の広さを足すと、50㎡を超えるか、超えないか。

二つの質問で答えが出る

総務省消防庁のリーフレットに書かれている判定はこうです。人を泊めているあいだ、家主が不在になるか。そして、宿泊者が就寝するために使う室(宿泊室)の床面積を合計するといくつか。

家主が不在にならない場合。あるいは不在になっても宿泊室の合計が50㎡以下の場合。このどちらかに当てはまれば、消防法令上は普通の住宅と同じ扱いです。新しく消防用設備を入れる必要はありません。住宅用火災警報器(天井や壁につける、煙を感じて音で知らせる小さな機器)がちゃんと付いているかを確認すれば済みます。

一方、家主が不在になり、なおかつ宿泊室の合計が50㎡を超える。この二つが重なったとき、その建物は消防法令上「宿泊施設」として扱われます。旅館やホテルと同じ区分です。

ここが大事

「または」ではなく「かつ」です。家主が不在でも50㎡以下なら住宅扱い。50㎡を超えていても家主が居続けるなら住宅扱い。両方そろって初めて、旅館と同じ土俵に上がります。

数えるのは宿泊室だけで、建物全体ではありません。リビングや廊下、風呂場は入らない。逆に言えば、寝室として貸す部屋の合計が50㎡を少し超えるかどうかで、必要な工事も維持コストもまったく変わってきます。境目に近い物件をお持ちなら、ここは図面を出して落ち着いて計算する価値があります。

マンションの一室を貸す場合はどうか。判定は住戸ごとに行います。そのうえで、宿泊施設扱いになる住戸が建物全体の9割以上を占めれば建物全体が宿泊施設。9割未満なら、住宅と宿泊施設が混ざった建物という扱いになります。一室だけ民泊にしている分譲マンションなら、後者に落ち着くのが普通です。

宿泊施設側に振れたら、何が要るのか

一戸建てで宿泊施設扱いになったとき、求められる対応は四つあります。

一つめは、自動火災報知設備。建物のどこかで火災を感じ取ると、建物全体に一斉に知らせる仕組みです。これが最も費用のかかる部分になります。

二つめは誘導灯。避難経路が分かりにくい建物の場合に求められます。逆に、玄関まで一直線で迷いようがない小さな家なら、不要と判断されることもあります。

三つめは、カーテンやじゅうたんを燃えにくい製品(防炎物品)に替えること。これは工事ではなく買い替えの話なので、比較的取り組みやすい。

四つめが、意外と見落とされます。設備を入れて終わりではなく、点検を年2回、その結果の報告を年1回。毎年続く作業です。開業時の見積もりだけを見て判断すると、この分が抜け落ちます。

300㎡未満なら、壁を壊さずに済む

自動火災報知設備と聞いて、天井を剥がして配線を通す工事を思い浮かべた方。そこまでしなくていい場合があります。

建物の延べ面積が300㎡未満の一戸建てなら、「特定小規模施設用自動火災報知設備」という簡易なものが認められています。配線工事が要らず、無線でつながる感知器だけで構成できる。一つの感知器が煙を感じると、電波で他の感知器にも伝わって全部が鳴る、という仕組みです。

延べ面積300㎡未満

無線式の連動型感知器だけで構成できる簡易な設備でよい。配線工事が不要。

延べ面積300㎡以上

通常の自動火災報知設備が必要。受信機と配線を伴う工事になる。

もう一つ、消火器の話。延べ面積が150㎡以上ある場合。あるいは地下、窓のない階、3階以上の階に床面積50㎡以上の部分がある場合。このいずれかに当てはまれば、消火器の設置も必要になります。宿泊室50㎡とは別の基準なので、混ぜないでください。

  1. 宿泊室として貸す部屋の面積を足す。50㎡を超えるか確認する
  2. 人を泊めているあいだ、家主が建物にいるかどうかを決める
  3. 両方が重なるなら、建物の延べ面積を確認する(300㎡未満か、150㎡以上か)
  4. 図面を持って、所轄の消防署に事前相談する

根拠になっている通知は、平成29年10月27日付の消防予第330号「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱いについて」と、平成30年1月9日付の消防予第2号です。窓口で話が噛み合わないときは、この番号を出すと早い。

旅館業には、この分かれ道がない

ここまで読んで、旅館業の許可を取るほうが自由度が高いのでは、と考えた方がいるかもしれません。消防の面に限れば、逆です。

旅館業の施設には、「家主が住んでいて、宿泊室が50㎡以下なら普通の住宅と同じ」という緩和がありません。旅館・ホテル等は原則として消防法施行令別表第一の(5)項イ、つまり宿泊施設として扱われる。家主が同居していようがいまいが、自動火災報知設備などの対象になります。

この違いは、制度の設計思想の差だと考えています。住宅宿泊事業は住宅を使う制度として作られたので、住宅の実態が残っているうちは住宅として扱う余地を残した。旅館業は最初から営業施設の制度なので、その余地がない。

だから、小規模で家主が同居する形なら、消防設備の負担は住宅宿泊事業のほうが軽くなります。ただし年間の営業日数の上限など、消防以外の縛りは住宅宿泊事業のほうが厳しい。どちらが得かは、消防だけでは決まりません。

先に確認を

設備の工事を発注する前に、所轄の消防署で事前相談を。誘導灯が要るかどうかのような判断は、間取りを見てもらわないと決まりません。工事後に「これでは足りない」と言われるのが、いちばん高くつきます。

50㎡という線の意味

冒頭の、窓口で固まった方の話に戻ります。あの方の物件は、寝室三部屋で合計52㎡でした。二部屋だけを宿泊室にして、一部屋を物置にすれば線の内側に入る。実際にそう変更して、住宅扱いのまま開業しています。

貸せる部屋が一つ減るので、売上は落ちる。それでも、設備工事と毎年の点検を考えれば、こちらのほうが手元に残る。そう判断したわけです。逆に、部屋数で稼ぐつもりなら、最初から宿泊施設として設備を入れて、点検費用込みで採算を組んだほうがすっきりします。

50㎡という線は、越えてはいけない線ではありません。どちら側で商売をするかを決める線です。まだどちら側にいるか分からないという方は、まず宿泊室の面積を足すところから始めてください。

出典は総務省消防庁の「民泊における消防法令上の取り扱い等」(https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/suisin/post20.html )と、消防庁・住宅宿泊協会のリーフレット「民泊を始めるにあたって」(https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/suisin/items/minpaku_leaf_horetai_r8_3.pdf )です。

設備の維持や点検の手配まで含めて任せられる委託先を探すなら、民泊ビトの業者データベース(/companies)で対応範囲を比べてみてください。


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